25.ささよ
歌津地区寄木浜(よりきはま)では、子どもたちが江戸時代から250年あまりも続く、貴重な伝統行事を伝えている。浜の寒さがもっともきびしくなる小正月の1月15日、寄木地区の男の子たちは、それぞれの家の大漁旗をもって集落の一軒一軒に門付けして歩く。その軒先で子どもたちは大漁を祈り、声を合わせて唄いあげる。
「おらが寄木浜 あらよう 漁のある浜だ おめでたいやなー…ささよ よいとこら よいとなえ」
冷え切った空気を震わせて、子どもたちの元気な声が寄木に響き渡る。
家々はお神酒とご祝儀を用意している。お神酒が旗竿の根元に注がれると、子どもたちの唄声が一段と高まる。
門付けを終えると、年長の大将はもらったご祝儀を全員に分配する。
これは、船頭が船子に漁獲を分配することを真似したものとされている。
一連の行事は、すべて子どもたちに任される。子どもたちの話し合いには、おとなは決して入れない。
子どもたちの自主性を尊重する「ささよ」は、男の子たちが浜の大人に一歩近づく通過儀礼なのだ。
子どもたちの唄声が浜に響く度に、寄木の人々は昔を思い出す。自分を迎えてくれたかつての浜のおとなたちを思い起こす。
寄木の人々の心の結びつきは、伝統とともに紡がれてきた。震災の未曾有の被害を越えてなお、その伝統を継承する人々がここにいる。