13.戸倉っこかき
東日本大震災の大津波で、自宅はもちろん船や作業場、そしてすべての養殖棚を失った南三陸町戸倉地区の漁師たち。彼らは復旧作業の合間を縫って、毎日毎日、養殖や集落の再建について話し合いを重ねた。その喪失のどん底で、彼らはある選択をする。
「養殖棚がぎっしりと並んでいた震災前より、もっと豊かな環境の海を創ろう。」
海の豊かさを持続可能にする未来を見据えた漁業を目指そうと一致したのだ。
戸倉かき生産組合は、きびしいチェック項目をクリアし、日本で初めて養殖業においての国際認証を取得した。
志津川湾を囲む深い山々から滋養豊かな水が流れ込み、カキのエサとなるプランクトンが育つ。その生態系を維持しながら、住民のコミュニティーも持続可能にする生産的な環境づくりを目指そう、目先の利益に縛られず、より遠い未来の豊かさを目指そうと戸倉の漁師たちは共有した。戸倉っこかきは、日本最先端の創造的なとりくみで育まれた、最高品質のかきである。
ひとりひとりが養殖の作業の中で、むずかしい国際基準をクリアする責任を果たすという高いハードルを越えられたのは、東日本大震災という未曾有の災害が、戸倉の人々同士の絆をさらに堅いものにしたからだ。
海と生きる人間が、何をなすべきかをひとりひとりが考えての決断だった。「戸倉っこかき」は、戸倉の漁師たちの共生・共助の心意気の賜物なのである。