仙台市立加茂中学校様【山から学ぶプログラム】実施レポート
■実施概要
【日時】2023年5月16日 12:30~14:30
【団体】仙台市立加茂中学校様
【人数】23名
「森里海ひといのちめぐるまち 南三陸」というビジョンを掲げる南三陸町。東日本大震災で甚大な被害を受けた町は、その復興にあたって、地域資源を循環させていく持続可能な地域を目指しています。
世界三大漁場の一つである三陸沖など、「海の町」のイメージが強い南三陸町ですが、実は町の面積の約8割を山林が占めています。この森は、2015年10月、宮城県で初めてFSC認証を取得。FSC(Forest Stewardship Council 国際森林認証)は、「木材を利用しながら森を守る」ために、森林が適正に管理されていることを証明するものです。
今回は、町内で林業経営を行う株式会社佐久がFSC山林をフィールドに展開する「山から学ぶプログラム」を紹介します。大きく二部制になっている本プログラム。前半は、実際にFSC審査員になって基準をチェックしながら豊かな山林について学びます。後半では火起こし体験を通じ、森のもたらす恵みを知り、森を楽しんでいきます。
チェックツアーは町内の里山・入谷地区にある株式会社佐久の山林に着いたところからスタート。案内人は株式会社佐久の佐藤太一さん。生徒たちは普段あまり入ることのない山に踏み入れることで、あたりをキョロキョロと眺めています。そんな中、佐藤さんは生徒たちに質問を投げかけていきます。
「林業というお仕事って何をする仕事か知ってる?」
「身の回りに木でできているものを探してみよう」
との問いかけから徐々に生徒も緊張を和らげていきます。
さらに問いかけは続きます。
「山の働きって分かる?大きく分けて4種類くらいになるかな」
普段は当たり前に存在している山。その役割とはなんだろう?あまり考えたこともないような問いかけに生徒たちも少し困惑した表情を見せます。佐藤さんが徐々にヒントを出しながらうまく生徒たちから答えを引き出していきます。
「山が健全な状態じゃないとこれらの役割がしっかりと発揮されない。正しい林業をやらなければならないが、その正しい林業ってどういうことに気をつけなければならないのか?ということを規定したのがFSC認証です」
実際の審査では400以上のチェック項目があるそうですが、それを50項目ほどに分かりやすく抜粋したチェックシートが参加者に配られました。
「これからみなさんはFSC認証の審査員になってもらいます。私の説明を聞いて、しっかりとできているかチェックしてほしい」と佐藤さん。
例えば「労働者の権利」という項目には
・労働者の権利や安全を守っているか
・労働者が十分な安全装備を身に着けているか
・安全に伐採されているか
という3つのチェック事項があります。
佐藤さんのお話しを聞きながら、生徒たちはこれらの項目がしっかりと達成できているかどうかをチェックしていきます。
チェックリストにある10の原則は「法律の遵守」「先住民族の権利」「地域社会との関係」「森林のもたらす利益」「環境価値と環境への影響」「管理計画」「モニタリングと評価」「高い保護価値」「管理活動の実施」など、法律的な側面から、経済的側面、そして文化的な側面など幅広い事項に分かれています。
「この項目にはチェックできませんでした!」
と生徒が声をあげれば、少し移動しながら解説を加えていきます。ただ話を聞くだけではなく、現場ならではのライブ感のある相互のやりとりが特徴のプログラム。
自分自身でチェックをしていくという主体性が入ることで、一見すると難解で、理解し難いような事象もすんなりと理解が深まり、腹落ちしているような姿が印象的でした。
「良い山」とは何かを体験した後、後半はお楽しみの火おこし体験へと移ります。
「前半のプログラムで私たちは山の恵みをたくさんいただいていることを学びました。そのなかには、人間が楽しんだり、癒されたりする効果もあると言われている。それをこの体験で学んでほしい」
このプログラムの狙いを株式会社佐久の大渕香菜子さんは話します。
「みなさんと一緒にこの山を歩きながら、火を起こすために必要な燃えるものを探して集めていきましょう」
グループごとに集まって、袋を背負い山の中へ入っていきます。
しかし、この日は前日に本降りの雨が降ったため難易度は高い状況。
「湿っているものは燃えますか?乾いているかどうか判断するときにどうしたらいいと思う?」
と生徒たちに声をかけながら山道を進んでいきます。
「葉っぱみたいなやつどうだろう?」
「これ良さそう!」
「全然乾いてないじゃん」
「皮も燃えそう」
「松ぼっくりもいいんじゃない?」
生徒自身で考え、チームメンバーと意見を交換しながら周囲の木々に目を凝らして進んでいきます。
約30分ほど山を散策しながら、燃やすための材料を思い思いに集めてきた生徒たち。
「では、取ってきたものを燃えるように組んで火をつけてみましょう」
マッチを熱源として火をつけようとしますが、一筋縄ではいきません。
「見事火をつけることができたチームには『マシュマロ』をお渡しします!自分たちで起こした焚き火で焼きマシュマロを楽しみましょうね」との声に生徒たちの目つきはいっそう真剣に。
「これ枯れ葉の位置大事じゃない?」
「こんなに詰めたら酸素なくなるよ」
「細かいの入れてみようか」
などここでもチームの議論は活発化。成功している班を参考にするなど、自分たちで学びながら最終的には全チームが火をつけることに成功しました。
自分たちで起こした火を使って、焼きマシュマロを作って食べていきます。苦労して火を起こしたからこその味わいも普段以上に格別なもの。思わず生徒の顔もほころびます。
「今まで知らなかったことをチェックすることで山の味方が変わった気がする。山は山でしかなかったが、一つ一つ視点を変えてみると 草が生えていたり、生えていなかったりというのにも意味があるんだと学ぶことが出来た」
「中学生だけで火起こしをするのはあまりないので、燃えるものを探して、みんなで協力して燃やせたときの達成感があった。最初は燃えるものを見つけるのは大変だったけど、だんだんコツを掴めてきた」
座学ではない、主体的に考え、動いたからこそ実感を伴って理解が深まっていることがわかります。さらにチームで協力しあうことでチームビルディングにもつながっているようです。
「普段気にしていないことが自分たちの生活にとって大事なことだということを自然のなかで気付いてほしいという狙いがありました。最初は難しいなと感じていたかもしれませんが、後半のプログラムで自分たちで山を歩いて考えることで、前半の説明も実感として感じられたのではないか」と先生の声も上々。
火おこしはただ楽しいだけではありません。その術を知っていることで、有事の際に命を守ることにも繋がります。
「東日本大震災のとき、山は貴重なエネルギーとして活用された。もし災害に巻き込まれたときには今日の経験を思い出してほしい」と佐藤さんは話します。
地球温暖化への対策で「脱炭素社会」への注目が集まる今、森の果たす役割はこれまで以上に大切なものになっています。教育現場でも「SDGs」や「持続可能性」が取り扱われることが多くなりました。南三陸のFSC認証を取得した山林でのアクティブラーニングをぜひ取り入れてみませんか?