麴町学園女子高等学校様【南三陸SDGsアクティブラーニング】実施レポート
■実施概要
【日時】2022年5月10日 13:45~16:45
【団体】麴町学園女子高等学校様
【人数】43名
SDGsというキーワードが世の中に浸透し、普段の生活の中でもSDGsが意識されることが増えてきました。それは教育旅行の場面でも例外ではありません。むしろ、普段の学校生活と違う場所にわざわざ行くからこそ、その地ならではの社会課題やSDGsの取り組みを学びたいと考える学校も増えてきています。今回は、そんな学校の1つを取材させていただきました。
今回参加していただいたのは、「南三陸アクティブラーニングプログラム」の中でも、環境学習をテーマにしたもの。講師は、一般社団法人サスティナビリティセンターの代表を務める太齋彰浩さんです。
生徒たちは、現地に来る前にオンライン講義を受講してからこの日のプログラムに臨みました。
そのオンライン講義の内容を軽く振り返るところから、プログラムを開始。
今世界中の海で起こっている温暖化や海洋酸性化の問題や、その影響で南三陸でも秋鮭の漁獲高が劇的に減っていること、その他にもサンマやマグロが既に絶滅の危機に瀕しており、食べられなくなる未来がすぐそこまで来ているといった内容を、スライドでおさらいしていきます。
「このままでは世界的にタンパク質争奪戦が起こって、昆虫食がメジャーになるかもしれないね」という太齋さんの言葉に、それだけは嫌だ!という表情で聞き入っています。
今回のプログラムでは、生徒たちがグループに分かれ、今世の中にある社会課題一つにスポットを当て、解決策を考えるというワークに取り組んでもらいます。
「みんな、ソーシャルビジネスっていう言葉を聞いたことがあるかな?事業を通じて社会課題を解決するビジネスのことで、社会的企業とも言われるね。今回は、1グループごとに1つの会社を立ち上げるとして、みんなにビジネスで社会課題を解決する方法を考えてもらいたいと思います。つまり、国が税金を投じてこういうことをすればいいとか、みんながボランティアでこういう活動をすればいいっていう解決策は、今回はなしね。」
まるで、大学の経営学の授業のようなレベルの高いお題です。
これから約2時間のうちに、取り組む社会課題を定義し、どんな事業で解決できるのかのアイデア出しと検証を行い、発表する準備をしなければなりません。
みんな不安そうな顔のまま、グループワークに突入しました。
まずは各グループで、付箋を使いながらどの社会課題に取り組むか話し合います。
事前のオンライン講義の印象が強いのか、「温暖化」「海洋汚染」まで書いてペンが止まってしまったグループもありました。
「大きすぎる課題はブレイクダウンして考えるんだよ。」
太齋さんの声かけに、
「海洋汚染の原因の中でも、プラスチックに絞ってみる?」
「プラスチックごみを減らすために、リサイクルが促進される方法を考えてみるのはどう?」
と、少しずつ議論が進みはじめました。
「意見がまとまらないときは、自分の身近な問題から考えてみるといいよ。例えば、南三陸町の志津川高校は、震災で町が所有していたバスが流されてしまって、部活の遠征等に行けなくなったことから、自分たちで町の特産品やグッズを売って、その売上で町にバスを寄贈したんだ。」
太齋さんは、時折町の事例も挟みながら、生徒たちがつまずいていそうなポイントに対して声かけをしていきます。
あっという間に発表の時間がやってきました。
この難しい課題に対して、短時間で発表までもっていけるのかと心配していましたが、蓋をあけると、どの班も自分たちの会社名までつけて、楽しそうに事業の発表をしていました。
海洋汚染の原因となるプラスチックの削減を目指した班は、「街なかにプラスチックを分別して入れると音が出たり投票ができるゴミ箱を設置する」というユニークな事業を考えていました。
途中、グループワークに打ち込む生徒たちに触発されて、急遽教員チームが発足。先生方も社会課題を解決する事業を考えて発表したのですが、生徒たちから鋭い質問が殺到。最も生徒たちがイキイキしていた瞬間でした。
全ての班の発表が終わった後、全体で振り返りをしました。
「日頃からビジネスの種を探すような視点で生活してみると、ニュースや授業で聞く話も見え方が変わってくるよね」と太齋さんがまとめると、生徒たちは真剣な表情でうなずいていました。
そこから、南三陸の戸倉地区の牡蠣養殖の講話に移りました。
もともとは過密養殖で育ちが悪く、出荷できるまでに時間がかかるので経費がかさむ割に、実入りが良くないので、収入も上がらないという悪循環に陥っていた戸倉の牡蠣養殖。
震災後に環境に配慮した漁業に切り替え、ASC国際認証を取得しました。
養殖棚の数を3分の1に減らしたことによって、これまで出荷までに3年かかっていたものが1年に短縮され、品質も向上しました。
経費は4割削減され、収入は1.5倍になったという驚くべき成果を上げたのです。
労働時間が短くなったことによって若い後継者も増えていったといいます。
まさに、環境への配慮と経済性を両立させながら課題解決に成功した事例を、食い入るように聞いていました。
食品ロスや地方の後継者不足をテーマにしていた班にとっては、こういう解決の仕方もあったのかという、思わぬ答え合わせにもなりました。
プログラム終了後に生徒に感想を聞くと、
「マグロやサンマが絶滅してしまうかもしれないと聞いてショックだった。」
「社会課題を解決しながら、ビジネスとしても成立させるというのは、普段考えない視点だったので新鮮だった。」
「普段は話さない他のクラスの人とグループになって話し合ったのが楽しかった」といった声が聞かれました。
先生方に、なぜあえて修学旅行にこのようなアクティブラーニングのプログラムを取り入れたのか尋ねてみました。
まず、訪問の第一の目的が被災をした地域住民が「前を向いて進んでいく姿」を直に生徒に見せたかった(聴かせたかった)という思いがあるとのこと。
そのことを踏まえ、語り継ぐことが大切だと考えるからだとおっしゃっていました。
「語り継ぐ」といっても、現地の方が語って、これを皆さんが語り継いでくださいね、といったことを覚えて帰るということではなくて、「私はこう思った」と言えることを持ち帰ることが重要だと考えているそうです。
二つ目は、東北で起こった震災という出来事を他人事にしてほしくないからだとおっしゃっていました。そのためには、ただ現地を見る、説明を聞くというだけではなく、自分で考えて発するというアクションが重要だと考えているそうです。
確かにプログラム中、だんだんと生徒たちが打ち解けて、真剣になっていくなかで、始めは個々で付箋にばかり目を落としていた生徒たちが前を向いて、グループのみんなと意見を交わすことに慣れていく様子が見受けられました。
今回参加した生徒たちは、興味をもった社会課題について自分ごととして考え、自分の考えを述べるという体験ができたと思います。このプログラムをきっかけに、自分ごとの枠を広げ、自分の言葉で語ることを身につけていってもらえたら嬉しいと思います。
「南三陸SDGsアクティブラーニングプログラム」詳細についてはコチラから