「上智大学」オンラインプログラムレポート

実施概要

【団体】上智大学・募集型オンラインイベント
【日時】2021年1月16日 15:00~17:00
【人数】15名 

東京都千代田区に位置している上智大学(本部)は、1928年に設置された私立大学。
2017年から3年連続でご来町頂きました。主にボランティアビューロー(学生センター)が主体となり、復興状況視察などを目的にしています。
これまで町内で民泊体験、おでって(ボランティア)活動や南三陸人に学ぶプログラムを受講しました。

イベントの企画・目的

 今回の企画の主催者は上智大学の学生の皆さんで、毎年学生主体の企画で南三陸町に訪れていたのですが、このコロナ禍ということもあり、今年は初めてオンラインでの体験プログラムの企画に至りました。
 オンライン企画では全体で4回構成のシリーズとして企画されています。前後には震災学習や働き方、食などについてテーマにした回があり、第2回目となる今回の企画は、昨今話題になっている「SDGs」について、地域レベルでの取り組みや実践を学ぶことでより理解を深めたいという考えのもとで企画されました。海も森もASC認証とFSC認証を受けている南三陸町だからこそ、専門家の講師から色々と「持続可能」における考え方や取り組みについて学ぶことを目的としています。

実施プログラム

今回のオンラインプログラムは持続可能な産業を学ぶ「南三陸人に学ぶプログラム」の短縮版で、それぞれ40分の講義で「水産講話」と「森林講話」を行いました。
 ※「南三陸人に学ぶプログラム」とは、未曾有の大震災から立ち上がり、南三陸町内で事業再建に向けひた走る経営者・事業関係者たちに、震災発生以降~現在に至るまでの道のりについて話を伺うプログラムです。

体験の様子

■プログラムの流れ

  • オープニング(主催者からの挨拶・趣旨説明)
  • 水産の講話(一般社団法人サスティナビリティセンター 代表理事 太齋彰浩氏)
  • 森林の講話(株式会社佐久 専務取締役 佐藤太一氏)
  • グループディスカッション
  • 発表・フィードバック

 

■水産の講話
 まずは一般社団法人サスティナビリティセンターの太齋さんから、私たちが食べる肉や魚にちなんだ「持続可能」を切り口に考えるクイズがあり、参加者の皆さんは積極的にチャットでクイズに回答していました。そのうえで、海の資源である天然の魚がなくなりつつある危機的状況について説明があり、その理由として漁業そのものの問題や環境問題についても参加者の皆さんとデータを見ながら学びました。

 南三陸町でも盛んな養殖業ですが「天然の魚に影響が出ているなら養殖にすれば良い」というわけではありません。養殖業も天然資源に影響を与えることがあるという観点から、ASCやMSCというのがどのような取り組みなのか、そして南三陸町の戸倉で取得したASC認証までの経緯がどのようなものだったのか、震災前後の漁業の実態と震災を機に取り組んだことも踏まえて紹介がありました。

 数十年とそう遠くない未来に食べられない魚や貝が増えていくという話に危機感を持つことができた参加者の皆さんも多いでしょう。ASC認証を得ること自体が持続可能にするのではなく、あくまでもASC認証を得てからもどう努力していくかということが大事であること、そして持続可能を考えるには「環境・経済・社会」の全てをバランス良く意識しなければならないという太齋さんからのメッセージを受け、参加者の皆さんも大きく頷いていました。

 

■森林の講話
  続いて株式会社佐久の佐藤さんから、林業についての簡単な紹介や身の回りにある木を原料とした製品についての確認があったうえで、南三陸町は町域の77%が森林であるということ、そして南三陸町は森と川と海が繋がっているため山のコンディションが川や海にも影響するということの説明がありました。山のコンディションについては、管理の良い山と悪い山の例を見比べてクイズがあり、参加者の皆さんもしっかり見分けることができました。

 一方で、管理の悪い山が増えてしまうのは、所有者がきちんと管理できない森林が増えているということ、そしてそこには、大事に十数年育てた木1本がいくらで売れるのかという現状も影響しているという話がありました。その現状に、参加者の皆さんの表情からも驚き(!)が窺えました。

 林業は、ただ木を売るだけではなく地域を守ること、地域の資源を守ること、生態系を守ることにも繋がっています。そのような取り組みも踏まえて、南三陸町では、町内の森林所有者たちも巻き込みながらFSC認証の森林を増やし、製材所や加工過程、商品販売の事業者も巻き込みながらFSC材を広めていきました。

 震災前から「南三陸杉」のブランディングは取り組んできていましたが、これらの取り組みもあって、町内の公共施設にもFSC材を使用してPRすることができ、今では参加者の皆さんもよく知っているお店や企業など、さまざまなところでFSC認証の南三陸杉が使われるようになっています。参加者の皆さんも、林業の知られざる努力に感動している様子でした。

 

■発表
 水産の講話と森林の講話を受けて、参加者の皆さんは4班に分かれて15分間のグループワークを行いました。グループワークのポイントとしては「①環境・社会・経済の三方良しであること」「②自分ごととして取り組めること」「③楽しい、ワクワク成分が多めであること」を意識したアイデアを出すことで、各班の発表としては次のような意見がありました。

▷学生たちも座学ではなく現地で一緒に体験しながら学ぶことが大事だと思った。そうして関わりを持つことで、南三陸町の木材を使って作ったベンチなどほんの一部でも大学の敷地内に設置し、そしてプレートなどでFSCについての宣伝もできれば、少しずつでも意識を広げることに繋がるのではないか。学生は、学部によっては日頃環境のことを考える機会が少ないこともあるので、こうして学部を超えて学べるのが良い機会だと思う。

▷自分ごととして取り組めるように、私たちの生活に影響してくる水産資源の現状を知るためのワークショップをしていくのが良いと思った。

▷ASCやFSCのことを学ぶことができるブースを作って、大人も子どもも学べるような施設があると良いと思った。ワクワクしながら学ぶためには、単純にASCで認可された牡蠣を食べて学ぶということもワクワクすることだと思う。

▷課題としては、ASCとFSCの認知度の低さがあると思うため、知名度を上げることができればと思った。その方法として、例えば漫画やアニメに乗っかって聖地巡礼のような形でも良いから現地に足を運ぶことでの学びやネットでも知ってもらえるように発信するという方法はあると思う。ただ、それだと対象が偏るかもしれないので、一般に広がるためにも、ASCやFSC商品を購入することでお得になるようなポイントなどがあれば良いと思う。

■講師からのコメント
 これらの発表を受けて、太齋さんからは「ちゃんと自分ごとに考えていてくれて嬉しかったし、一緒に企画していくこともインターンを受け入れることもできるから、ぜひこれを機に何か進んでいければ嬉しいと思いました」、そして佐藤さんからは「伝えたかった部分もちゃんと伝わってくれていて嬉しいし、面白い企画やアイデアが出たと思います。今はコロナでなかなか難しいかもしれないですが、ぜひ皆さんにも一度南三陸町まで現地を体験しに来て欲しいです」とコメントがありました。主催者の方からも「ぜひ現地で体験したい」ということや「できることから意識していきたい」というお話がありました。

講師の感想

  今回講師を務めてくださった太齋さんと佐藤さんに、この企画に対する印象や今回の講話に込めた思いなどを聞いてみたところ、太齋さんからは「ASCとか知らない人が本当に多いので、こうして学びたいという学生たちがいて、こういう機会で伝えることができるのは有り難いと思います。今、海の資源は本当に危機的状況にあるということがなかなか知られていないので、こういう場をきっかけに、今日話を聞いてくれた学生たちからまた他の学生たちへ、少しでも認識が広がっていったら嬉しいです」という思いを話していただきました。

講師:太齋彰浩氏

そして、佐藤さんからは「南三陸町は海の町のイメージが強いけれど、その海にも関連する森林のことも知ってもらい、林業にも関心を持ってもらえたら嬉しいです。南三陸町は、海だけや山だけでなく、海も山も両方を考えてバランス良く守っていくことが持続可能に繋がっていくということを意識して先進的な取り組みをしているということも、ぜひもっと知ってもらいたいです」という思いを話していただきました。

講師:佐藤太一氏

  実際、太齋さんも佐藤さんもASCとFSCについて、身近な生活に関することや知らないうちに使っているもの・食べているもの・利用しているお店などに関連付けながら話をしてくださったので、参加者の皆さんも分かりやすくて楽しく学べる講話でした!

主催学生の感想

 今回のプログラムを終えて、主催側の方に感想を伺いました。この企画を作り上げるために、南三陸町のまちづくりの計画や漁業・林業の取り組み、その他さまざまな情報を調べていたとのこと(町の人より詳しくなりそうなくらい!)でしたが、それでも終わってみて印象的だったことが何かと聞いたら「知らないことが多かった」ということでした。

 今回の提供プログラム(講話)については、充実した講話を聴くことができ、満足度は120%との嬉しい評価も!そして、学生生活の中でも1つの地域のことや1つの業種のことを細かく調べる機会があまりないため、今回この企画を成立させるために細かいところまで調べるという経験をしたことはこれから社会人になっても役立つ経験だったということで、企画する側としても学ぶことが多かったという感想もいただきました。

 

参加学生の感想

 今回のプログラムに参加した学生さん2名から感想をいただきました。

▷最近「SDGs」や「持続可能」はよく言われているが、東京ではその取り組みが目に見えて分かる機会がほとんどないと感じている。そういう意味では、地方でこそ実践的に取り組んでいることやカタチになっていることがたくさんあると思ったので、これからも地方に目を向けることが大事だと思った。震災前後でも大きく変化はあったと思うが「SDGs」が取り上げられるよりももっと昔から、南三陸町が持続可能のために取り組んできたことがあれば、もっと学びたいと思った。

▷まずは「企画していただきありがとうございました!」と伝えたい。今回このテーマで参加して「持続可能って何だろう」というのをすごく考えた。お話を聞いてもある意味まだもやっとしている。それは「持続可能」の捉え方や定義が、講師の方もその他の方もきっと立場や向き合っているもので少しずつ違ってくるものだからだと思う。大事なのは、自分ごとにして自分なりの「持続可能」を定義できるように向き合って考え続けることだと思った。また、以前南三陸町に行ったことがあるが、今回はこのようにオンラインで参加し、バーチャルとリアルでも見えることや感じることが違うなと感じた。今回はとても客観的に聞くことができたし、そのうえでまた訪れたいとも思ったので、何度も南三陸町から学びたいと感じた。

参加者:渡辺様

参加者:高野様

  講師のお二人の思いや主催者の企画の意図がきちんと伝わって、今後の意識にも繋がるような時間になっていたのだということを参加者の方の感想からも実感できました。

 

今後利用される方へのメッセージ

 最後に、主催者の方と参加者の方から、今後このような体験プログラムを検討している団体や学校さんに向けて何か伝えてたいことがありますかとお尋ねしたところ、こんなあたたかいメッセージをいただきました!

■主催学生
 企画に携わることで、現地の関係者の皆さんともやり取りすることができて、企画する側ならではの経験や学びもあるので、もし興味があれば企画も挑戦してみて欲しいです。でも、なかなか企画までできなくても、本当に学びが多いので、このような体験にぜひ参加してみて欲しいと思います。

■参加学生
▷この体験を通して感じているのは「南三陸町の方々はすごくいきいきしている」ということです。東京にいると自分たちの地域のことを考えた生活なんてほとんどないと思いますが、南三陸町ではこうして自分たちの地域のことを自分ごととして考えて働いている人たちが多いので、生きる力やパワーを感じてもらえると思います。きっと人生のヒントになると思うので、ぜひ体験して欲しいです。

▷まず言えるのは「メリットしかないよ!」ということです。デメリットを探すことができないくらいです。しいて言うなら当然時間はかかりますが、始まってみたらあっという間でした。考えるきっかけにもなるし、刺激にもなります。グループワークでも普段関われない人たちと意見交換できるのは良い機会ですし、コロナ禍でもこうしてオンラインで繋がることができるのは嬉しいです。

ぜひ、コロナが落ち着いたらまた南三陸町に会いに来てください!
ありがとうございました!

 

 

ライター

  大場 黎亜氏(おおば れいあ) 
東京都出身。大学生の時東日本大震災をきっかけにボランティアで南三陸町に通うようになり、のちに南三陸町復興応援大使になる。2017年結婚を機に南三陸町民となり、町を盛り上げていくための活動にも積極的に関わる。早稲田大学教育学部卒及び教育学大学院を修了しており、専門は敎育・文学・まちづくり・防災。現在株式会社Plot–d代表取締役。

 

 

コメントを残す